人気ブログランキング |
<< ウエスタンとは 新しい実験手法 >>

ウエスタン

知り合いの研究者が数年前論文でウエスタンのデータを発表しました。間近で実験を見ていた私はその抗体の特異性にかなり疑問を持っていました。しかもその論文で発表されているウエスタンのデータは、その論文のコアの部分となっています。

具体的にはストレス処理である代謝物は変化するが、その合成に関わる酵素の細胞内の存在量は変わらない、ということをそのウエスタンのデータで示しています。つまり、代謝量が変わるのはその酵素をコードする遺伝子の転写/翻訳段階での制御ではない、ということを主張しており、その論文のタイトルにもなっています。

その抗体の検定はかなりいい加減なものでした。というかほとんど特異性の検定を行っていません。目的のタンパク質の一次構造から予想される分子量とかなり異なる大きさのバンドが検出されているにも関わらず、そのバンドをそれと主張して論文にしてしまったのです。たしかにSDS-PAGEでは稀に予想分子量と異なる部分にバンドが出てきたりしますが、大腸菌で発現した場合は予想分子量に出ていたので、そもそもかなり疑問だったのです。ネイティブの細胞内では修飾される可能性なんかもありますが、その場合、予想より大きい位置にバンドが出るので、予想よりもかなり低い位置に出た今回の理由にはなりません。指導的立場の研究者も素知らぬ顔でその論文の投稿に賛同していました。お互い業績が欲しかったのでしょうか。

最近になってその酵素を欠損した変異体がとられ、その抗体でウエスタンをすると、やはりというべきか変異体でもばっちりバンドが検出されました。でも博士取得者であるその研究者はまったく素知らぬ顔です。論文で発表したデータのことに知ってかしらずか触れません。どうするのでしょう。今その変異体で実験をしているのは若い大学院生です。彼への影響を考えるとまったく暗い気持ちになります。私はその論文をリトラクトするしかないと思うのですが・・さもないとその大学院生の論文は投稿できません。

研究を指導する立場の人間はだれよりも自分たちのデータを批判的に見る必要があります。少しでも矛盾や怪しい部分があったら論文にしてはいけないのです。今回のことはあってはならないことだったと強く思います。
by stemcell | 2010-01-18 21:16
<< ウエスタンとは 新しい実験手法 >>