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科学的知識の蓄積

数ヶ月前、論文のレバイズ(改訂)に関する記事を書きました。その論文のレバイズを終え、先月エディターに提出しました。その再審査結果が帰ってきました。3人のレフリーに再度まわりその結果、私たちの得られた結果を基にしたあるタンパク質の挙動に関するモデルに関して2人のレフリーの激しい反対にあい(彼らのモデルとは合わないのです)、不採択でした。レフリーはどうしても我々のモデルには賛同できないようで、そんなもの発表されたら困る、という感じです。そんなにむちゃくちゃなことは書いておらず、素直に実験結果の解釈を書いただけなのですが・・エディターも気を使ってかそのジャーナルのもう一人のエディターにレフリーのコメント等を合わせて見てもらったようです。しかしレフリーの3人中2人が反対しているようだとさすがにそれを無視して採否を判定はできないということでしょう。

このようなことは科学論文が出版される過程でよくあります。科学というのは多数決で決着がつくものでは本来ないのですが、論文の審査の過程では影響を及ぼします。どちらが正しいかは今後仕事が進めばはっきりしてくるのですが、その過渡期では多数の支持が集まっている仮説の反証論文は出づらいものです。コペルニクスの地動説なんかはその最たるものですかね。身近には二酸化炭素が地球温暖化の原因だ、と言われていますが、これにしたって科学的には完全に証明されたわけではありません。大多数の人が支持している(実際は支持しているのはマスコミ関係者だけで、専門家の大部分は支持していない、とも言われています)というだけなのです。しかし仮説が入り乱れているなかで、そのどれが正しいのかをはっきりと示した論文は良い論文として評価されます。少なくとも私の今回の論文は残念ながらまだそのレベルにないと言えるのでしょう。

追加の実験などは求めずに反論しているのでこちらもどうしようもありません(そもそも現時点では誰もよい実験方法を思いついていないのです)。そのレフリーのコメントを読めば誰かはだいたいわかります。どちらもその分野の大物で、向こうもコレスポンディングオーサーの私のことを知っているはずです。向こうも自分の書いたコメントを読めばオーサーの私が、レフリーが誰かを推定できることは読めているでしょう。それをふまえた上でのコメントなのです。ほとんど喧嘩ですね。もっとも(すくなくとも私は)その喧嘩が楽しくもあるのですが。最近は研究分野の細分化が進み、それぞれの研究者はなるだけ競合をさけようと独自の路線に進みがちです。このように激しいやり取りがまだ残る分野の研究をやることは、それなりに大変ですが、やりがいはあるというものです。
by stemcell | 2008-08-10 21:04
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