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よい貢献

数年来私が調べているタンパク質に関する論文が今週他の研究者によって発表されました。私の知らない研究者で、私の属するコミュニティーとは違うグループに所属している人たちと思われます。よく学会で一緒になるこのタンパク質に関する仕事をしている研究者らは、タンパク質の化学的性質(protein chemistry)に興味を持った人たちが大半です。しかし今回の著者らはある生物の示す表現型に興味をって仕事をしていたらこのタンパク質に行き着いた、ということのようです。すなわち今回このタンパク質の生体内での役割を遺伝学的に明らかにしました。

私もこのタンパク質の生理的役割に興味があったので一時期実験をしたことがありました。一次構造(タンパク質のアミノ酸配列)から予想される酵素活性の有無を調べました。しかし予想された活性は見られずそのまま頓挫していました。よく調べると活性ドメインの全体の構造は似ているのですが、重要なアミノ酸がいくつか保存されていないことはわかりました。

今回の彼らは非常にきれいにそのタンパク質の役割を明らかにしていました。どうもこのタンパク質は特定の酵素活性は持たず、他のタンパク質と直接相互作用することでシグナル伝達を行うタンパク質であるようです。

私が知りたいと思っていたことが全てそこで明らかにされていました。へえ〜という感じで感心しました。こちらも責め手を欠いていたので”やられた”という感じはあまりありません。しかも私が行っていた生化学的な解析を行う上で有用となる情報がかなりあります。よい仕事をしたとき科学者は”良い貢献だ”という表現をしますが、これはそんな理由があります。まさに良い貢献なのです。

今回の場合のように異なるアプローチで仕事をしていたら同じタンパク質に行きついたり同じ結論が導き出されたりすることはよくあります。しかも(今回は違いますが)大抵それが同じ時期にわかってくるのですよね。そのような場合上手く論文発表を申し合わせることができると同時に良い雑誌に載ったりします。学会はそのような情報を仕入れる最も良い機会で、参加することはその点からも重要と言えます。もっとも私はそんな目にあったことはあまりありませんが。
by stemcell | 2009-03-06 21:12
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